[1]歯の構造
根管治療に対する理解を深めるために、歯の構造について確認しておきましょう。歯の一番外側を覆っているのはエナメル質で、人間の体の中で最も硬い組織です。歯は外側から、エナメル質、象牙質、歯髄(しずい)の3層構造で出来ています。歯は半透明ですが、エナメル質の下の象牙質が透けて見えるので、白く見えるのです。
歯の中心に位置して象牙質に囲まれているのが歯髄と呼ばれる組織で、これは歯の神経のことです。歯髄は歯に加えられる様々な刺激を感知して、中枢に伝達する役目を担っています。更に、痛みによって虫歯などの疾患に気付かせたり、免疫細胞が細菌に抵抗したりして、防御機能を果たしています。歯髄の先には小さな孔があり、顎の骨の中の神経や血管と繋がっています。
[2]根管治療とは
虫歯が進行した場合、歯髄が細菌感染し、痛んだり、歯肉が腫れたりします。最悪の場合、歯を失うことにもなりかねません。その歯を救って保存しようとするなら、歯髄の一部または全部を除去する治療が必要となります。この治療を根管治療と言います。根尖病変と言って、歯根の先に膿が溜まったような場合にも根管治療が行われます。歯を抜かずに、歯を残すことを最優先とするのが、根管治療の基本的な考え方です。
根管治療は神経の治療です。従って、
- ⓵まず、神経が露出するところまで、歯を削る。
- ②手用器具を使って歯髄を除去する。
- ③根管長測定器により歯根の長さを測る。
- ④除去した後を無菌化する。
- ⑤薬を注入する。
- ⑥密閉する。
- ⑦確認のための画像撮影を行う。
-
というステップを辿るのが一般的な流れです。
[3]根管治療のパターン
根管治療にはいくつかの処置パターンがあります。抜髄(ばつずい)というのは、虫歯により細菌感染した歯髄を抜き取ることです。感染を放置すると歯根に膿が溜まり、症状は悪化します。歯槽骨(しそうこつ)という歯を支える顎の骨にまで感染が到達した場合には、歯肉を切開して感染部位を切除し、密封する方法を採ります。
感染根管治療と言って、以前の治療が不十分であった場合には、根尖(こんせん)病巣の治療を行います。
細菌の除去が不完全で、膿が溜まってしまったようなケースでは、再度の治療を行うこともあります。
[4]根管治療の対象病態
根管治療が必要となる病態は様々です。その例を挙げてみます。
- 歯髄炎:虫歯が進行して歯髄まで達した場合。炎症が回復しない場合、抜髄が行われます。
- 歯髄壊死:歯髄炎を放置し、組織や細胞が死んだ状態。歯の色が変わり、痛みは感じなくなります。
- 根尖性歯周炎:根尖部の病変。虫歯の放置により、痛み、膿などが発生するようになります。
歯科治療の中では、凡そ4分の1程度が根管治療の対象となっていると言われています。
■MTA
歯科用セメントを使用することによって、歯の神経を残せる、歯を削る量を少なくできる、抜歯せずに歯を残せることがあるといった利点があります。従来の虫歯治療であれば抜歯が必要な虫歯も、MTAセメントの使用によって抜歯せずに残せることもあります。
■根管拡大装置トライオート
根管治療で歯根の形状をスムーズに整えることができるため、治療時間の短縮につながると同時に、治療の安全性を大きく向上させます。
[5]根管治療の要点
根管治療は歯を残すための精密な作業に特徴のある治療法です。そのため、治療に際して患者さんに理解しておいて頂きたいポイントがいくつかあります。
一つは、治療中の無菌化が重要ということです。そのため、唾液が混入しないよう、頻繁なうがいは避けて頂く、ということになります。一般的な虫歯に較べると根管治療の治療回数は多くなります。曲がりくねった根管内部を治療するので、歯を押されて、不快感を覚えることも避けられません。
また治療によっては痛みや腫れが生じることもあります。
もう一つ、押さえておくべきポイントは、根管治療のための特殊な器具、例えば歯科用CT、マイクロスコープ、ラバーダム、特殊な薬剤などは保険診療では使うことができない、という点です。根管治療はかなりの部分で、自費診療となることも認識して戴く必要があります。